見慣れた光景と違和感と、見慣れたはずの景色にびっくりするけど、落ち着く事。
一昨年、母が危篤という事でちょいと長い間福岡に帰った。
帰ってみると母の変わりようにびっくりしたが、
付き添う事くらいしか出来る事が無いので病院と実家を往復する毎日だった。
僕の家は団地の五階で、玄関を出て最初の一段目に腰をかけて靴を履くのが一日の始まり。
景色は変わらない様で、何かが変わっている。
何が変わったのだろう?
何が、、?
何かが違うんだけど。
あ!
そうか、
そんな事もあるんだな。
山が一つね、僕の視界の左端にあるはずの山が無い。
砂利か何かを採掘してた山なんだけど、こうも見事に無くなるんだね。
新しい景色を見下ろしながら、昔より高い所が苦手になっている事に気がつく。
ここで育ったくせに、今は高い所駄目なんだな。
昔の僕の家の周りはエグかった。
本当にエモかったのを覚えている。
団地の子供は大体不良で、お兄ちゃんやおねぇちゃん達は大体怖かった。
団地の周りは一周違法駐車が囲んでおり、3台に1台は窓ガラスが砕けてて、
8台に1台くらいはひっくり返っていた。
毎日誰かが怒鳴っていて、何年かに一回大人の花火の音が響いたらしい。
真面目でも不良でも無いシャバ増の僕は、怯えて過ごしていた。
今は違法駐車は1台も無くて、団地を囲んでいた田園も全部住宅になっている。
此処で育って、此処で死ぬつもりだった僕は。
なぜ今神奈川に居るんだろう?
音楽を始めなければ、この町で何をしてたんだろう?
通っていた小学校への路がてら、ふらふらと思いを巡らす。
平日の昼間に合えるはずも無い同窓生に、偶然合う事を期待しながら。
アリブンと言う、駄菓子屋兼文具屋を覗きながら、案外変わらないおばちゃんにびっくりした。
僕が初めて作ったオリジナル曲のタイトルになった文具屋だ。
『♪ありぶんのおばちゃん 万引きすぐバレるー♪』
から始まる心からどうでも良い曲。
学校を眺めると、なんだか不思議な気持ちになる。
あの頃は普通の事だったけど、
学校の端っこの三階と四階部分が取り壊されていて、
そこから鉄骨がむき出しになっている。
何故、あそこはあのままなんだろう?
むき出しの鉄骨はそのままなのに、プールと体育館は建てかわっていた。
小学校を経由してスーパーマーケットへ。
醤油売り場を見てびっくりする。
品揃えが半端じゃないのだ。
濃い口、薄口、旨口、甘口の醤油がドドーンと並んでいる。
平均的な関東のスーパーの5倍くらいの量がある。
あ、家で使ってた醤油だ。
なんだかそれを見つけた途端、違和感を抱えた景色が普通の事になる。
頭の中の関東のスーパーマーケットが正解から間違えに書き換えられる。
甘い醤油と適当な刺身を買って帰えった。.